学校教育のデジタル化のイロハ

学校教育(主に小中学校)のデジタル化について、備忘録的に記録しています。

レ:令和の日本型学校教育とデジタル化

「令和の日本型学校教育」答申

 令和ロマンが、M-1グランプリの2023王者となりましたが、「令和の日本型学校教育」というものが、2021年1月の中教審の答申で提言されています。

 「令和の日本型学校教育」というのは、2020年代を通じて実現すべきとされている学校教育の姿で、答申のタイトルでは「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」ということが謳われています。

www.mext.go.jp

 GIGAスクール構想による新たなICT環境の活用は、「個別最適な学び」の実現に大きく貢献するものと考えられます。

 

「令和の日本型学校教育」答申にあるデジタル化に関する項目

 この答申では、総論の中の4項目目で、「令和の日本型学校教育」の構築に向けた今後の方向性を示していますが、この中で(3)として、「これまでの実践と ICT との最適な組合せを実現する」ということが掲げられています。また、その次の5項目目で、「 ICT の活用に関する基本的な考え方」が記載されています。(以下のような形です。)

 

4.「令和の日本型学校教育」の構築に向けた今後の方向性
(1)学校教育の質と多様性,包摂性を高め,教育の機会均等を実現する
(2)連携・分担による学校マネジメントを実現する
(3)これまでの実践と ICT との最適な組合せを実現する
(4)履修主義・修得主義等を適切に組み合わせる
(5)感染症や災害の発生等を乗り越えて学びを保障する
(6)社会構造の変化の中で,持続的で魅力ある学校教育を実現する

5.「令和の日本型学校教育」の構築に向けた ICT の活用に関する基本的な考え方
(1)学校教育の質の向上に向けた ICT の活用
(2)ICT の活用に向けた教師の資質・能力の向上
(3)ICT 環境整備の在り方

 この総論にある考え方が、各論の中を通じて、具体的に記載されていますが、特に各論の6、7、9では、学校でのデジタルの活用の方向性(6)やGIGAスクール構想などの環境整備(7)、デジタル化に対応する教員養成や研修(7)などについて記載されていて、デジタル化に関する今後の重要な方向性が示されていると思われます。

6.遠隔・オンライン教育を含む ICT を活用した学びの在り方について
7.新時代の学びを支える環境整備について
9.Society5.0 時代における教師及び教職員組織の在り方について

 

 令和答申では、現在中教審で検討が進められていることの出発点が示されていたりしますので、関心のある方は本文をあたってみていただくと良いと思います。全体を読むとちょっと長いですが。。

タ:端末の性能は確保されているの?

GIGA端末の標準仕様書

 GIGA端末は、低スペックだという声を聞くことがありますが、2019年12月20日文科省が公開した「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」では、求められる詳細仕様(別紙2)が示されています。

https://www.mext.go.jp/content/20200303-mxt_jogai02-000003278_407.pdf

 この標準仕様書では、学習者用コンピュータのモデル仕様が、Microsoft 社、Google社、Apple 社、それぞれが提供している 3 種の OS について提示されていますが、実際の各自治体における調達での仕様は、この標準仕様書の記載内容を参考にしながら、必要な内容を取捨選択し、調達仕様書を作成することとされています。

 また、教科横断的に必要ないわゆる「学習用ツール」についても併せて検討することとされています。以下は、第1回デジタル学習基盤特別委員会の資料4−2の抜粋ですが、ウェブブラウザやワープロ表計算ソフトなどは、それぞれ無償で提供されているものの利用もできます。

GIGA端末の標準仕様(デジタル学習基盤特別委員会資料より抜粋)

 

性能が不十分と思われるPCの例

 先日、GIGA端末の故障が多発しているという、以下のニュースがありました。

www.asahi.com

 

 記事の内容をよく読むと、こちらは県立学校向けの端末についてのことで、GIGAスクール構想の国の補助金で整備された小中学校向けのものではなく、全額県の負担で整備されたもののようです。

 高校レベルでのGIGA端末の整備は、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」の活用が認められていますが、実際には、都道府県負担、保護者負担など様々な場合があります。文科省のHPに各県の状況の資料がありましたので、ご参考まで貼り付けておきます。

公立高校GIGA端末整備状況

(参考)

www.mext.go.jp

ヨ:幼児教育でのデジタルの活用は?

幼稚園、保育園でのデジタル活用

 幼稚園、保育園などの幼児教育でのデジタル活用については、事務の効率化や保護者との連絡で活用されている例が数多く見られます。小中学校での校務支援システムのようなイメージです。

 文科省のHPでは、「これからの幼児教育と ICTの活用」という資料が公開されているのですが、ここでは、校務支援的なICT活用に加え、子どもたちの動きや温度(体温)などをデータ化して、ビッグデータを幼児教育の充実に活用するということが記載されていました。凄いなーと思ったのですが、調査研究での先端的な事例の紹介のようです。

https://www.mext.go.jp/content/20200525-mxt_youji-000004222_12.pdf

 この報告書にも少し触れられていますが、幼児教育段階では、安全管理の面からも、デジタルの活用は有効と思います。

 

幼稚園教育要領の解説

 一方で、幼児教育そのものでのデジタルの活用(幼児によるタブレットの利用など)については、直接体験が重要という観点から、様々な意見があると思われます。ただ、様々な実践事例をインターネット上でも見つけることができますので、すでに取組は進んでいるようですね。

 幼稚園の学習指導要領に当たる「幼稚園教育要領」については、デジタル教育に関する記載はありませんが、文科省が作成している解説書の中には、情報機器の活用についての記載がありますので、決して幼児教育でのデジタル活用が禁止されているわけではありません。

 具体的には、解説書の「3 指導計画の作成上の留意事項」の中で、以下のような記載が置かれています。

(6) 情報機器の活用
(6) 幼児期は直接的な体験が重要であることを踏まえ,視聴覚教材やコンピュータなど情報機器を活用する際には,幼稚園生活では得難い体験を補完するなど,幼児の体験との関連を考慮すること。

https://www.mext.go.jp/content/1384661_3_3.pdf

 

 ちなみに、保育園の指導要領に当たる内容が示されている「保育所保育指針」の解説では、「皆でビデオやテレビ、映画などを見ること」について「保育所で保育士等や友達と一緒に聞いたり、見たりする時には、皆で同じ世界を共有する楽しさや心を通わせる一体感などが醸し出される」という解説がありました。(デジタル動画を見たりする機会もあるのでしょうね。)また、事務でのデジタル活用については、「職員間の情報の共有や効率的な評価の仕組みをつくるために、情報通信技術(ICT)などの積極的な活用も有効である。」といった記載があります。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202211.pdf

 

カ:海外と比較して、日本のデジタル教育はどうなの?

海外でのICT活用の状況は?

 教師のICT活用の国際調査としては、「OECD国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)」があります。直近では、2018年に第3回調査が、OECD加盟国等48か国・地域の参加の下で実施されています、

 調査結果は、日本国内の調査実施を担当している国立教育政策研究所のHPで公表されていますが、「生徒にICTを活用させることについて、頻繁に行う日本の中学校教員の割合は前回2013年調査と比べて増えているが依然として低い。」と分析されています。

www.nier.go.jp

 

 具体の数値や各国の状況などは、上記のHPをご参照いただければと思いますが、「児童・生徒に情報通信技術(ICT)を活用する活動を頻繁にさせている中学教員の割合は17.9%で、下から2番目の低さ」という当時の報道もありましたので、ご参考まで載せておきます。

www.nikkei.com

 

学校端末の普及状況は?

 上記は、学校でのICTの活用状況でしたが、ハード面での整備については、国際学力調査である「PISA2018調査」で、生徒一人あたりの学校端末の状況の調査が行われています。

Material resources available at school | PISA 2018 Results (Volume V) : Effective Policies, Successful Schools | OECD iLibrary

 日本語版の資料では、この結果が載っていないようでしたので、OECDの報告書から、各国の状況のデータを抜粋してみました。結果は、以下の表のとおりです。

生徒一人あたりの学校端末の状況(PISA2018)

 この調査時点の状況ですと、日本は、生徒一人あたり端末が0.6台で、OECDの平均0.8を下回っています。ですが、その後、GIGAスクール構想を経て、1人1台端末の普及が進んでいますので、今後の国際調査では、きっと上位になっているはずです。

 次回の調査での順位上昇を期待しています。

 

ワ:Wi-Fiルータの貸出がされていない?

コロナ禍でのWi-Fiルータの貸与

 コロナ禍の「GIGAスクール構想」では、オンラインでの授業代替の際にGIGA端末活用が想定されていました。こうした対応で、通信環境のない家庭の子どもがオンライン授業が受けられないという状況を避けるため、文科省から市町村等に対して「家庭学習のための通信機器整備支援事業」で、貸与用のモバイルWi−Fiルータ等の購入費を補助を行っていました。

 ですが、この事業で準備したルータがあまり活用されなかったということで、1年ほど前に、会計検査院からの意見表明がされています。

 

コロナ禍でのWi-Fiルータの貸与事業

 会計検査院のHPにある「意見の表示」の内容を見ると、令和2年度に整備されたルータ計178,325台(補助金交付額計16億1101万余円)のうち、113,315台は令和3年度末までに一度も貸与されておらず、家庭学習に使用されていない状況となっていた、とのことです。

report.jbaudit.go.jp

 

 こうした状況を踏まえて、会計検査院から文部科学大臣に活用策を検討するよう意見が提出されています。

 なお、ルータの貸与率が低調な要因を把握している市町村等に内容を確認した結果として、「ルータの貸出希望者が想定より少ないため」が最も多く、次いで「家庭学習が進んでいないため」となっていることも公表されていました。

 このうち、「ルータの貸出希望者が想定より少ないため」については、「家庭におけるインターネット環境の整備が進んだため」という内訳が多く、「家庭学習が進んでいないため」については、「家庭学習は緊急時のみ実施する方針となっているため」「家庭への端末の持帰りについて検討中のため」という内訳が多くなっていました。

 

 意外に過程での通信環境が整ってきていることや、緊急時でのルールの形成が追いついていなかったことなどが見て取れる結果かなと思いました。

 

(参考)

ura49.hatenablog.jp

 

ヲ:大きなシェアを占める事業者は?

GIGA端末のOSのシェア

 GIGA端末のOSのシェアは、文科省から公表されており、ChromeOS、WindowsiOSが、4:3:3となっていたのですが、具体的な事業者のシェアなどは公開されていませんでした。

https://www.mext.go.jp/content/20211125-mxt_shuukyo01-000009827_001.pdf

 

GIGA端末のシェアは、アップル、レノボNECの順

 ですが、先般(2023年10月12日)、MM総研の調査で、GIGAスクール構想における小中学校のICT環境の事業者シェアの分析結果が公表されました。

 調査は、全国1,741の市区町村教育委員会を対象に、電話アンケート調査を行ったものとのことです。

 まず、端末のOSシェアでは、Google「ChromeOS」42%、MicrosoftWindows OS」29%、Apple「iPadOS」29%で、文科省の公表と、ほぼ同様となっています。

 次に、端末のメーカーシェアですが、ChromeOS端末(分母:約382万台)では、「NEC」30%、「Lenovo」23%、「HP」14%となっています。Windows OS端末は、「Lenovo」26%、「dynabook」22%、「富士通」で22%となっています。(iPadOS端末は、すべてAppleです。)

 上記の結果と「iPadOS」Apple100%であることを踏まえると、端末全体では「Apple」29%、「Lenovo」17%、「NEC」13%となります。

 

校務支援システムは、エデュコム、スズキ教育ソフト、内田洋行

 同調査では、各市町村が整備している学習eポータルや校務支援システムについても調査結果が公表されています。

 まず、学習eポータルでは、NTTコミュニケーションズ(まなびポケット)36%、内田洋行(L-Gate)34%、オンライン学習システム推進コンソーシアム(実証用学習eポータル)20%となっています。

 また、校務支援システムは、「EDUCOM」32%、「スズキ教育ソフト」26%、「内田洋行」8%となっています。

www.m2ri.jp

 

 GIGA端末は外資系が多いですが、システムは国内の事業者が多いのですね。

 

ル:ルールは追いついてきている途中?

デジタル教育のための法整備

 デジタル教育(ICT教育)は、近年のクラウド等の技術の進展とコロナ禍で一気に加速化されましたが、そのためのルール整備は、まだ形成途上にあると感じることがあります。

 最も重要な国のルールは法律といっていいと思いますが、法制度の面では、デジタル教育を推進するルールは、相当に整備されています。

 具体的には、2018年の学校教育法の改正で、2020年4月からデジタル教科書の使用が認められるようになっていますし、デジタル教科書導入等の動きを踏まえて、2019年には、学校教育の情報化の推進に関して、基本理念や、国、地方公共団体等の責務について定める「学校教育の情報化の推進に関する法律」が制定されています。

www.mext.go.jp

ura49.hateblo.jp

 

デジタル教育にそぐわないルールや運用

 実際の各学校・教育委員会での運用についても、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が、GIGAスクール構想や政府全体のクラウド・バイ・デフォルトの原則等をふまえて、改訂されています。

www.mext.go.jp

 ですが、実際の学校でのデジタル活用の実態を聞くと、クラウドは安全性が不安、学習データを活用するのは個人情報上問題がある、などの一部の慎重な方々の意見(誤解も)で、新たな取組を見送っているというお話も聞きます。

 それ以前に、主に校務の面では、紙や押印を前提とするルールが残っていて、システムへの入力とは別に、紙の出席簿や出勤簿を二重に作成しているという例もあります。また、子どもたちの学習の面でも、GIGA端末の持ち帰りのルールなど、それぞれの学校や自治体ごとに、まだまちまちの状況と思われます。(持ち帰りを認めていない学校も、1割程度ありますし。。)

 各学校での運用のルールや運用が追いつくには、もう少し時間がかかりそうですね。。