学校教育のデジタル化のイロハ

学校教育(主に小中学校)のデジタル化について、備忘録的に記録しています。

ヌ:盗まれたり、壊れたりした端末はどうなるの?

GIGA端末の破損・紛失率は0.2%

 通常の電子機器と同様に、児童生徒1人1台に整備されるGIGA端末にも、破損や故障が起こることが想定されます。また、校外学習での仕様や家庭への持ち帰りなどでの活用が進めば、紛失や盗難の危険も高まります。

 GIGA端末の故障率について検索すると、2021年10月に文科省が公表した0.2%というデータが出てきます。その時点では、小中学校に整備された945万9,698台のGIGA端末のうち、破損や紛失したものは、1万9,228台で全体の0.2%という状況だったようですが、本年5月の「デジタル学習基盤特別委員会」の資料(資料4-2・P69)では、令和4年8月じてんので、端末の破損・紛失率は全国平均で2.2%とされいます。

www.mext.go.jp

 

破損時の対応・費用は、自治体の負担

 上記の調査では、GIGA端末の破損時の対応方法は、「保守契約等により代替機を手配」が2割、「予備機を活用」が4割、「購入・修理」が3割で、自治体によって様々、とされています。

 破損や故障への対応は、事業者との保証契約などで対応することとなりますが、落下などの取り扱いが適正でなかった場合には、有償での修理となると思われます。その場合は自治体の負担となります。また、紛失や盗難などは、保険などに入っている場合を除き、通常は自治体の負担で対応せざるを得ません。

 インターネット上の記事を見ると、子どもたちが乱暴な取り扱いによる故障の例も、数多く見られるようです。余分な財政負担が生じるだけでなく、予備機がない場合などは、子どもたちの学習環境に空白が生じてしまうことにもなりますので、まずは端末の正しい使用方法を指導していくことも、とても重要な課題と思われます。

pc.watch.impress.co.jp

 

自治体での修理等の負担が、年間2000万円程度の例も

 最後に、GIGA端末の修繕等の負担に関する令和4年10月の和歌山市からの要望が、インターネット上にありましたので、参考までに抜粋しておきます。

GIGAスクール構想実現に係る環境の維持及び修繕に要する財源の確保を求める意見
書案(抜粋)

本市の令和3年度におけるGIGAスクール端末の故障率は1.8%、1台の修繕費は平均約39,111円となり、本市の導入台数24,553台から令和3年度ベースで試算すると年間2,000万円程度の予算が必要となる。また、今後、端末の長期使用による故障率の上昇も想定されるとともに、更新時において更なる予算の増大が懸念される。

https://www.city.wakayama.wakayama.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/483/2303162.pdf

 

リ:理解度はデジタル教育で高まるの?

デジタル教育の効果

 GIGAスクール構想以降、デジタルを活用した教育という意味で、デジタル教育という言葉が使われることがあります。コロナ禍での緊急的な対応でなく、通常授業でのデジタル教育でのGIGA端末の活用は、まだ始まったばかりですので、デジタル教育の効果の検証も今後の課題という部分が大きいと思いますが、以前のブログでも紹介したとおり、「個別最適な学びに関する効果」についての、校長の認識としては、以下のような調査結果となっています。


〇 「学習速度・到達度等に応じた指導の個別化」「関心や課題に応じた学習材や学習課題の提供」「一人一人の学習状況の詳細な把握」について現時点で積極的な変化を感じている校⾧は6~8割程度である一方、「自ら学習計画を立てて行う学習活動」については4割程度。
〇 いずれの項目も、今後に更なる期待を感じている校⾧は、9割以上にのぼる。

 

www.mext.go.jp

 

児童生徒の理解度とデジタル活用との相関は?

 GIGAスクール構想以前から、デジタル(ICT)を活用した教育は行われていましたが、そうした実践におけるデータは、どのようになっているのでしょうか?

 少し前のものになりますが、平成23年度から25年度に行われた調査研究についての結果が、「学びのイノベーション事業実証研究報告書」として、取りまとめられています。

 その中で、「ICTを活用した教育の効果」についても記載がされており、以下のような結果が紹介されています。

 

【学力の状況】

○標準学力検査(CRT)の結果を、平成23年度と24年度の経年で全国の状況と比較すると、低い評定 の出現率が減少している傾向が見られる。また、中学校においては、高い評定の出現率が多い集団 では、さらに高くなる傾向も見られた。

 

【教員の意識】

○ICTを活用した授業は、児童生徒の「意欲を高めること」「理解を高めること」「思考を深めたり広げ たりすること」「表現や技能を高めること」に効果的であると、全期間を通じて約8割以上の教員が 評価している。

 

www.mext.go.jp

 

 今後、GIGA端末を活用した教育実践の効果については、更に調査等がなされると思いますので、引き続き状況を見ていきたいと思います。

 

チ:中教審ではどんな議論がされているの?

中央教育審議会について

 中央教育審議会中教審)とは、文科省に設置されている審議会で、教育に関する幅広い事項を取り扱っていますが、小中学校教育に関することは、その下の初等中等教育分科会で主に扱われています。分科会の下には、部会や委員会を置くことができ、さらにその下に、ワーキンググループなどを置くことができます。近年、デジタルに関する事項を扱う会議体も数多く設置されています。

 

中教審でのデジタルに関する議論

 文科省の「審議会情報」のページを見ると、様々な部会や委員会が置かれていることが分かりますが、現在、開催されている主なものとしては、以下のようなものがあります。

◯デジタル学習基盤特別委員会

 初等中等教育分科会の下に本年から設置されており、学校ICT環境の整備やその活用推進のあり方などを検討しています。直近では、9月に第2回会合が開催されています。GIGAスクール構想や学校DXに関する報告などが行われています。

委員長      堀田龍也    東北大学大学院情報科学研究科教授
委員長代理    高橋 純    東京学芸大学教育学部教授
委員長代理    奈須正裕    上智大学総合人間科学部教授

 

◯次期ICT環境整備方針の在り方ワーキンググループ

 デジタル学習基盤特別委の下に設置されたもので、6月に初会合が開催されています。現行の「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」が2024年度末に期限を迎えることから、2025年度以降の端末やネットワークなどの整備の在り方が検討されています。

主査   高橋 純    東京学芸大学教育学部教授
主査代理 堀田龍也    東北大学大学院情報科学研究科教授

◯個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会

 初等中等教育分科会の下に、2022年に設置されており、一人一台端末等を円滑に活用した児童生徒への学習指導・生徒指導等の在り方や、教科書、教材、関連ソフトウェアの在り方などについての検討がされています。

部会長   荒瀬克己 独立行政法人教職員支援機構理事長
部会長代理    堀田龍也 東北大学大学院情報科学研究科教授
部会長代理    金丸恭文 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長グループCEO

 

◯教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ

 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会の下に、2022年に設置されており、令和6年度からのデジタル教科書の本格的な導入の在り方や、デジタル教材などの適切な活用方法についての検討がされています。

主査      堀田龍也    東北大学大学院情報科学研究科教授
主査代理    奈須正裕    上智大学総合人間科学部教授

 

傍聴などは、文科省の審議会情報のページで案内が出ています。基本的にオンラインで傍聴できます。とても便利になりました。

www.mext.go.jp

ト:動画を授業で使ってもいいの?

YouTube動画を補助教材として利用できる?

 YouTubeなどの動画サイトには、児童生徒の学習に利用できる動画が多数掲載されています。英語の検定試験などの対策で、動画サイトをご覧になられた経験のある方も多いのではないかと思います。

 小中学校等の授業は、文科省の検定済みの教科書を使用することとされていますが(学校教育法第34条第1項)、教科書は主たる教材という位置付けですので、その授業における補助教材という扱いで、動画サイトなどの動画を利用することは、基本的には可能です。昔から視聴覚室などで、映像を使った授業は行われていると思いますが、デジタル動画も同じ考え方だと思えばわかりやすいかと思います。

 

助教材の利用は教育委員会の許可が必要?

 授業で補助教材が使えるより直接的な根拠ですが、学校教育法で、学校では、「教科書以外の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる」(第34条第4項)とされています。このような教材を補助教材と呼びますが、市販・自作を問わず、教育効果の高いものが利用可能であることが、文科省からの通知「学校における補助教材の適切な取扱いについて」でも示されています。

http://jela1970.jp/m2016/45.pdf

文科省のサイトで探せなかったので、日本教育法学会のリンクを掲載しています。

 

 また、学校における補助教材の使用については、あらかじめ、教育委員会に届け出させ、又は教育委員会の承認を受けさせることとする定めを設けることとされており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第33条第2項)、各教育委員会の定めるルールを踏まえることが必要になります。

 

著作権にも注意が必要

 学校の教室授業での動画の使用については、著作権者の許諾なく、無償で行うことができきることとされています(著作権法第35条第1項)。ただし、著作権者の権利を不当に侵害するような場合は除きます。

 一方、オンライン授業で動画を使用する場合には、基本的には有償となります(著作権法第35条第2項)。この辺は、制度改正があったり複雑ですので、文化庁のホームページで「学校における教育活動と著作権(令和5年度改定版)」などをご確認いただくとよろしいかと思います。

www.bunka.go.jp

 

(参考)

◯学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)
第三十四条 小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。
④ 教科用図書及び第二項に規定する教材以外の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる。

 

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
 (学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

 

ヘ:変なサイトをこどもが見たりしない?

GIGA端末は持ち帰り禁止?

 子どもたちが使うパソコンやスマホでは、不適切サイトへのアクセスを防止する「フィルタリング」の導入が欠かせません。

 暴力やアダルトなどの子どもに有害なサイトはもちろん、学習用のGIGA端末では、ゲームや勉強に関係のないサイトへのアクセスも制限する必要があります。また、ウィルス感染などセキュリティ上の危険のあるサイトについてもアクセスできないよう対応しなければなりません。

 児童生徒1人1台の端末を効果的に活用するには、自宅や校外での学習でも利用することが望ましいのですが、大人の目の届かない場面での利用が増えると、不適切なサイトへのアクセスも増加することが予想されます。端末の利用がかえって学習の妨げになったり、子どもたちがトラブルや事件に巻き込まれたりすることを避けるため、GIGA端末の持ち帰りを禁止する学校もあると聞きます。

 しかし、それではせっかくの端末が予習復習に活用できませんので、リスクを回避し、安全な学習環境を確保するためのフィルタリング機能の導入が有効な対応と考えられます。

 

フィルタリングとは?

 フィルタリングとは、有害なサイトにアクセスできないようにする機能のことですが、総務省内閣府のホームページに、詳しい説明があります。

 例えば、総務省のサイトでは、以下のような説明がされています。

フィルタリングは青少年を違法・有害情報との接触から守り、安心して安全にインターネットを利用する手助けをするサービスです。 
現在は携帯電話事業者をはじめ各社がフィルタリングサービスを提供しており、年齢や家庭のルールに応じてカスタマイズすることが可能なものもあります。

www.soumu.go.jp

 

 また、内閣府のサイトでは、以下のような説明がされています。

インターネット上の、子どもたちに見せたくない出会い系サイトやアダルトサイト等、有害情報が含まれるサイトを画面に表示しないように制限する便利な機能です。しかし、フィルタリングは万能ではありません。そのため、親子でフィルタリングの特徴や機能を正しく理解して、インターネットの利用ルールについて一緒に考えていくことが大事です。 

フィルタリングについて : 青少年有害環境対策|政策調整 - 内閣府

 

 見比べてみると、総務省は、携帯電話などの電気通信事業を所管する立場から、内閣府は、青少年の有害環境対策を所掌する立場から、それぞれ説明をしていることがわかりますね。

 

教育委員会でのフィルタリング導入は約9割

 GIGAスクール構想により導入された1人1台端末へのフィルタリングの導入については、デジタルアーツが2022年11月に発表した調査結果で、有償フィルタリング未導入率は約25%とされています。

 これは1741教育委員会へのヒアリングの結果で、フィルタリング未導入は162教育委員会(9.3%)、無償フィルタリングの利用が272教育委員会(15.6%)となっています。小規模な自治体の教育委員会での導入が遅れていると思われますので、学校数で見るともっと割合は高くなると思いますが、いずれにしても、まずは無償のものからでも導入したほうがいいと思います。(無償のものは広告が出るので、教育用の端末には適さないという意見を聞いたことがありますが、そういうものでしょうか。。)

www.daj.jp

 

ホ:本当にGIGA端末が使われているの?

GIGA端末の使用の状況

 GIGA端末の活用について、積極的に活用されている自治体の例がよく紹介されていますが、これらの多くは、GIGAスクール構想以前から取り組んでいた自治体のものです。

 その他の自治体も含め、全国的な状況はどうなのだろうと思っていましたが、今年に入ってから設置された「デジタル学習基盤特別委員会」(第1回:5月16日)の資料(4-2)に、「1人1台端末を授業で活用している学校の割合」に関する資料がありました。資料によると、「ほぼ毎日」と「週3回」の学校で約8割(全国平均)、しかし地域差が顕著(約2割~約8割)、とされています。

www.mext.go.jp

 

学習に関する効果

 この資料では、「個別最適な学びに関する効果」についての、校長の認識に関するデータも掲載されています。以下抜粋です。

〇 「学習速度・到達度等に応じた指導の個別化」「関心や課題に応じた学習材や学習課題の提供」「一人一人の学習状況の詳細な把握」について現時点で積極的な変化を感じている校⾧は6~8割程度である一方、「自ら学習計画を立てて行う学習活動」については4割程度。
〇 いずれの項目も、今後に更なる期待を感じている校⾧は、9割以上にのぼる。

 

 児童生徒用のGIGA端末の活用は、コロナ禍での緊急的なオンライン授業等での活用が先行して、通常の学校教育の中での効果的な活用という、いわば本来的な活用は、やっと昨年度から始まったところですので、9割の校長と同様に、これからの活用に更に期待をしたいと思います。

(のこり1割の校長先生は、期待がないのか、すでに目一杯取り組まれているのか、わかりませんが。。私は後者と思っています。。)

ニ:人数の少ない学校でもデジタル化は必要?

児童生徒のGIGA端末の整備の状況

 コロナ禍で、GIGAスクール構想による、小中学校の児童生徒1人1台端末の整備は前倒され、令和2年度中(令和3年3月)には、ほぼ整備が完了した、とされています。

 直近の状況を見ても、「全自治体等のうち、 1,810自治体等(99.9% )が令和4年度内整備完了、2自治体(0.1%)」とされており、こどもたちへの端末の整備は、学校の規模に関わらず進められています。

www.mext.go.jp

 

 「骨太の方針2023(令和5年6月16日閣議決定 )」においても、「国策として推進するGIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進める。」との記載があり、公教育のツールとしての端末整備や活用は、全国的に進められる必要があります。

 

校務のデジタル化

 一方で、校務のデジタル化という観点では、人数の少ない学校では、デジタル化を行っても、費用対効果が見合わないという意見がよく聞かれます。

 校務支援システムの導入などは、地方財政措置を踏まえて、各自治体の判断の下で進められていますが、基本的には教職員の負担軽減が目的なので、少人数の学校では負担軽減の効果も見込めないかもしれません。

 様々な書類をデジタルデータで作成していくということは、自治体全体の事務の合理化の観点からも必要になってくると思いますが、大規模なシステムが必要かは、様々なケースがありそうです。学校に関する事務は、都道府県が扱うものも多いので、データの形式が揃った県内統一のシステムで扱われるのが効率的ではないかなと個人的には思いますが、今後、県内で一括的に調達・導入するような形が標準的になってくれば、小規模な学校や自治体でもシステム導入のインセンティブになるかもしれません。

 

 なお、校務支援システムの共同利用などについては、文科省でも、「都道府県単位での統合型校務支援システムの共同調達・共同利用の促進」に関する取組を行っており、導入の手引なども公表されています。

www.mext.go.jp